大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 昭和52年(手ワ)2048号 判決 1977年12月09日

原告 株式会社総合工ム事務所

右代表者代表取締役 畑中信夫

被告 株式会社富士電気設備こと 峰尾正秋

右訴訟代理人弁護士 荒木和男

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

一  請求の趣旨

1  被告は原告に対し、金八七二万円及び昭和五二年七月一五日から完済まで年六分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

主文と同旨の判決

三  請求原因

1  原告は別紙手形目録記載の約束手形五通を所持する。

2(一)  本件各手形の振出人欄はいずれも「東京都中野区本町一―一一―一四、株式会社富士電気設備代表取締役峰尾正秋」と記載されているが、東京都中野区本町一―一一―一四には登記簿上右会社は存在しないので、被告は実在しない会社の代表者として本件各手形を振出したものであり、手形法八条に準じて、被告は本件各手形金の支払義務を負うべきである。

(二)  仮に、株式会社富士電気設備が実在し、同会社が本件各手形を振出したとしても、同会社は昭和五二年三月二八日に銀行取引停止処分を受け、その後何らの商行為をしていないので、慣習上、同会社の法人格は右同日において消滅したものというべきであり、同会社の代表者たる被告個人が本件各手形金の支払義務を負う。

3  よって、被告に対し、本件各手形金合計八七二万円と訴状送達の翌日である昭和五二年七月一五日から完済まで商法所定年六分の割合による遅延損害金の支払を求める。

四  請求原因に対する答弁

請求原因1項は不知。2項(一)のうち、本件各手形の振出人欄に原告主張のような記載のあること、株式会社富士電気設備が東京都中野区本町一―一一―一四に本店を有しないことは認めるが、その余は否認する。株式会社富士電気設備は東京都杉並区荻窪三丁目一二番五号に本店を有する法人であり、本件各手形の振出人欄には右会社の本店所在地と異なる場所が肩書地として記載されているが、肩書地が本店所在地と異なっても、一旦成立した法人は法律上法人格を失なう事由が生じない限り不存在とはならない。従って、本件各手形は右会社が振出したものであり、被告個人はその支払義務を負わない。2項(二)は否認する。

五  証拠《省略》

理由

本件各手形の振出人欄には「東京都中野区本町一―一一―一四、株式会社富士電気設備代表取締役峰尾正秋」の記載があり、株式会社富士電気設備は本件各手形記載の肩書地である東京都中野区本町一―一一―一四には本店を有しないことは当事者間に争いないが、《証拠省略》によれば、株式会社富士電気設備は東京都杉並区荻窪三丁目一二番五号に本店を有する法人であることが認められる。

原告は、株式会社富士電気設備の実在することを否定し、その代表者たる被告個人の責任を追及するが、会社は本店所在地において設立の登記をすることによって成立し、法律上会社として存在するのであり、実在する会社が会社の登記簿上の本店所在地と異なる肩書地を記載して手形を振出したからといってそのために会社の存在が否定されるものではなく、振出署名をした会社の代表者は個人として手形振出責任を負わないといわざるを得ない。従って、前記認定の事実によれば、株式会社富士電気設備は法人として実在し、本件手形の振出人は同会社であって、その代表者たる被告個人に本件各手形金の支払を求める原告の請求原因2項(一)の主張は失当である。

また、原告の請求原因2項(二)の法人格消滅の主張はその主張自体理由とはならないといわざるを得ない。

よって、原告のその余の請求原因を判断するまでもなく、原告の本訴請求は理由がないから、これを棄却し、民事訴訟法八条九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 山崎潮)

〈以下省略〉

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例